• こた「やさしい絵」

 田中浩人さんトコの新刊は、お得意の淡く切ない幼少期の恋心を描いたSF系*1Boy Meets Girl作品。あー、何度も書いてるけど、俺はこういうのには滅法弱いんだよ。独特の余白と間は、もはやFUGAZI的な職人芸の領域に突入。必要最低限のセリフに抑え、読み手の想像力を喚起する手法が作品のテーマを浮き彫りにさせている。アクセント的に用いるコメディな要素も、ともすれば暗く沈みがちな作品の世界観に活気と生命力を与える役割を担っており効果的。
 物語は主人公の男のコが「秘密基地」と称する洞窟に、ふらっとやってきた少女との出会いから始まる。そこで象徴的に描かれているのが、洞窟内の壁画。この壁画を軸に物語は展開していきます。男のコにとっては意味不明な絵なんだけど、それを見た少女は何かを感じ取ります。意味深に取り出した「飲み物」を男のコに分け与えたりしたのち、少女から男のコへ接触ー。
 無論エロもあるのだが、これはけしてサーヴィスのエロではなく、作品内において重要な意味を持ったシーン。これは生きてきた証としての行為であり、生の象徴、そしてじきに訪れるであろう別れ*2の暗喩。
 少女は男のコの前から姿を消し、やがて秘密基地の壁画が発見され、それが人類以外の文明のモノであり、その文明を築いた種族はすでに絶滅しているコトを男のコは知ります。それと同時に、少女がくれた「飲み物」の正体も。
 最期に男のコは秘密基地で少女と再会を果たし、少女が病に冒されていることを知る。そして、おぼろげながらに少女との別れを悟ります。少女は最期まで多くは語らず、しかし男のコの気持ちを確かに受け取りますが、男のコは自分が抱いていた気持ちを完全には理解できないまま、今日も壁画を前に涙する・・・。「恋」がなんなのかを知る前に終わってしまった切ない恋の物語。
 ここで描かれている喪失感は、派手な演出や大仰な展開などが無い分、とても静かで繊細な哀しみを感じさせてくれます。やがて男のコは、少女がけして寂しく逝ったわけではないことを知るだろう・・・そんな事を願わずにはいられない、悲しくも素敵な逸品。
 ラストはお約束の日記マンガで軽やかに〆。ここら辺のメリハリも良いカンジ。切なくemoいストーリーが好きなら、是非ともチェックしていただきたい作品です。つーか田中さんの作品は常に面白いので、単行本ともどもご一読あれ。大推薦。
HP>http://www1.odn.ne.jp/cota/
ex.>id:PIG-M:20030826、id:PIG-M:20040906

*1:Science FictionではなくSukoshi Fushigi by 藤子不二雄のSFね

*2: