ショックを受けるとかそんなドラマティックな精神状態には陥らず、かといってありのままの現実を受け止めた、などというほど人間が出来てもいません。正直いえば、ちょっと他人事のような心境でした。父の死と自分自身を上手く関連付け出来ていないというか。ですから、取り乱して号泣するとか言うようなコトもありません。つーか、涙すら出なかったし。
 これ以上止まっていても仕方ないので部屋を後にすると、会社の方々が死亡診断書を片手に状況の説明をしてくださいました。父は直接は自分で採ってはおらず、初体験だった方に指導していたそうで。その最中、急に心臓を押さえて倒れ、斜面を数メートル転げ落ちたそうです。同行の方が駆け寄ったときにはすでに心停止状態だったそうで、あとは昨日の日記のとおり。厳密には死因が特定出来なかったそうで、病院の方からは司法解剖の話も上がりましたが、父の亡骸を穢したくなかったし、何より「死」という厳然たる事実を前にしては、その原因など瑣末な事にしか思えなかったので(事件ではないのですから)それはお断りしました。
 そこから先は、感傷とは無縁の世界。すでに警察には連絡がいってたのですが、改めてコンタクトをとって、父の日ごろの健康状態やかかりつけの病院などについて、本籍について等幾つか調べておかなければならない事を確認し、再度連絡する旨を伝えられました。
 それらも面倒ですが、何より問題なのは葬儀に関してです。以前から知識として知ってはいましたが、世の中システマティックに出来ているもので、病院の方から業者さんを紹介していただきまして、早速そこに連絡。いつまでも霊安室を占拠してる訳にはいかないんで、ひとまず俺の自宅に父を搬送する事に。
 業者さんが来るまでの間にも、数人の会社関係の方が駆けつけてくださり、父に関する思い出話を口々に語って下さいました。父の外での顔など知る由も無かったので、少々意外でした。
 そうしていると、ウチに連絡して下さった親族(父の姪、俺にとってはいとこにあたるそうで)の方が到着。父に逢っていただいたのですが、中から嗚咽が聞こえてきまして、「これが普通の反応なのかなぁ」とか思っちゃったり。これで現場に居合わせた方々を非難するような事を言い出しちゃったら・・・とか思ってたのですが、幸いそれは杞憂に終わりまして。そこまでチープな事など、なかなか起こらないものです。
 そこに業者の方が到着。流石に手馴れたもので、テキパキと搬送作業に取り掛かります。その手際のよさにしばし見惚れるも、せっかくなので俺も手伝いに参加。ストレッチャーに移すとき、改めてその身体の冷たさを実感。こういった事でリアリティを感じるっていうのも皮肉なものですが。俺はそのまま父の亡骸と共に車に同乗し、一路家へ戻ります。車窓から見える風景は、大型連休に相応しい初夏の景色。ちょっと暑いぐらいの陽射しが降り注いでましたが、ひどく現実感に乏しい光景でした。