• 海底温泉「九月病 総集編②」
  • 海底温泉「九月病⑤」

 シギサワカヤさんの個人サークル。先日紹介した総集編の②と、シリーズ完結編の⑤。総集編の②にはシリーズ③と3.5、④を収録。総集編①と比べると、まず絵柄が格段にこなれてきまして、キャラが実にイキイキとしています。それと、なんと言ってもシリーズを牽引する重要人物である海老沢さん*1のキャラが実に明確に確立し、絶妙なバランスでストーリーを引き立ててくれるようになったので、より作品にメリハリがつくようになりました。物語的には、主人公兄の徹底的な鬱展開を中心に繰り広げられており、本来ならささくれ立ってイタいトーンに染まってもおかしくないのですが、海老沢さんという生命力溢るるキャラが絡んでいるおかげで、過度にsludgeで鬱なノリにはならず、暗さの中にも軽やかな隠し味が効いている印象。実際、海老沢さんがほとんど出ない回想系短編も収録されてるのですが、物の見事にシューゲイザー風味とでも言うべき俯きテイストに満ちていて、ラストに海老沢さんが出るコトによって急速に世界が彩られていくとでも申しましょうか。ホント良いキャラだよなぁ*2。無論、軽やかさのアクセントが効いているとはいえ、darkでharshな要素もしかり健在ですんで、刺さる刺さる。
 そんなテイストは、最終巻である「九月病⑤」にも引き継がれておりまして、冒頭から悲痛な旋律が炸裂しまくりで、号泣emo風味。兄と妹の、互いを思いやるが故に誤ってしまった選択。でも、それを無かったことにするのではなくしっかりと受け止めて、過ちを正してそれでも前に進んで行こうとする意思を丹念に、そして軽やかに描いてます。ラストの蒼い感覚は、どことなく後期DINOSAUR Jr.のJのギター・ソロを彷彿とさせる。
 全編を通すと、構成とかに粗は目立つし登場人物なんかももう少し整理出来た感は否めない。後半、ちょっとコメディ風味が増しすぎでもある。ただ、そんな細かいコトなど気にならないぐらい面白く、魅力的な作品であるコトは疑うべくもない。総集編の②以降は作品のフォーマットも定まり、ストーリーにgrooveが生じていた。絵もキャラも生命力を感じさせ、それ故に痛みも伝わってきた。
 同人誌というよりは、普通にマンガが好きな方に是非とも読んでいただきたい作品です。いや、この人はホント注目すべき作家さんですよ?なんかイラスト系のお仕事なんかはメジャーでもしてるようですが、絶対マンガを描かせるべきだって!マンガが好きなら、是非とも注目していただきたい作家さんです。勿論大大推薦!!
HP>http://www.kaitei-onsen.com/index.html
ex.>id:PIG-M:20050324

*1:主人公兄の同僚。主人公兄を憎からず想ってはいたが、主人公兄にレイプされる。それを境に、主人公兄と積極的に接触していく。面倒とは思いながらも壊れていく主人公兄を放ってはおけないという、一言で言えば「漢前」な性格

*2:もうじき30歳。黒髪直毛長髪でおデコ仕様。姉御肌。ノリ良し