• THE BEYOND "Crawl"CD.(EMI/TOCP-6915)

 1980年代末〜90年代中頃までUKで活動していたTHE BEYONDの、1991年産の1st*1を紹介。4人組のバンドなのですが、これがかなりユニークなサウンドを構築していたのですよ。俺がこのバンドのコトを知ったのは、毎度お馴染みEDISONの2Fだったワケですがw*2当時は「ユニークで面白いな」ぐらいの評価だったのですよ。ところが、この1stがリリースされたときは色んなイミでぶっ飛びました。まず、Producerの人選。Kerrang!かなんかの情報ではTerry Dateが手がけるって話だったのですが、いざリリースされた音源のクレジットを見たら・・・Barry Clempson???もしかしてART OF NOISEの"In No Sense? Nonsense!"のエンジニアをやってた、あのBarry Clempsonなの・・・!?ってな具合で、当時かなり度肝を抜かれた覚えが*3
 閑話休題。アルバムの話をする前に、THE BEYONDの音の特徴を書いとこう。そのサウンドは前述したようにユニークなんですが、それはその特異な楽曲のテクスチャーに起因します。一応Metalな比率が若干高めではあるのですが、そこにFusionやJazzなんかのテイストを加え、それをプログレッシヴな演奏で味付け、といった印象。今風のサウンドに例えるなら、MARS VOLTAとかが似たようなヴェクトルにあると思う。ただ、MARS VOLTAのような肉体性は皆無に等しく、その代わり、どこか醒めていて浮遊するような感覚を有しています。鋭利なサウンドとクールな佇まいの対比の妙が魅力なのですよ。
 さて、そんな意外な人選に若干のとまどいを覚えつつも、どんな仕上がりになってるのか想像もつかないという期待も膨らむワケで。そんな期待に、予想を上回るサウンド・テクスチャーで応えてくれました。思わず「コンポの高音を上げすぎたのか?」と思うほどに耳を刺激するスネアとハイハットの音にまず惹きつけられます。完全に低音域を捨て去っており、中音域と高音域に比重のほとんどを注ぎ込んでるのですが、これが大当たり。THE BEYONDが有する「浮遊感」*4を、物の見事に具現化させたテクスチャー。さらに、THE BEYONDの鋭利な攻撃性も高音域の強調によってより増幅されており、攻撃的かつ饒舌なドラムと、テクニカルでスラップを駆使したり*5フレットレスを使ったりして「攻め」の姿勢のベースが織り成すリズム隊は低音に頼らずとも十二分に機能し、楽曲の根幹を成しています。ギターは楽曲の浮遊感や不安感を煽るようにリフを刻みつつも左右に音が振られたりしてるんで、さながらサウンドの空間性を表現しているかのよう。無論、テクニカルでムーディなソロも素晴らしいんですがね。そしてvox。伸びやかで高めの声なんですが、なんというか上品な印象でして、その朗々と歌い上げる様がこのバンド特有の「浮遊感」を構築する最大の因子となっている点は、疑うべくもありますまい。
 個人的にTHE BEYONDが好きだったのは、サウンドの内包する醒めた感覚がとても心地良かったってコト。醒めてるといっても、GODFLESHとかに代表される無機質故の冷徹さとも一味違う、有機的な醒めかたがどこか飄々としていて魅力的だった。そんなTHE BEYONDの凄みを最大限に引き出したBarry Clempsonの手腕には最大限の賛辞を捧げたいのだが、THE BEYONDを語る上でもう一人欠かすことの出来ない人物がいる。それは、J.G.Thirlwell(a.k.a.Jim Foetus、Clint Ruin、etc))である。"Crawl"発表後にリリースされたシングル"Empire"CD.(EMI/CDHAR 5300)内でアルバム収録曲の"One Step Too Far"をremixしているのですが*6これが壮絶な仕上がり。THE BEYONDの醒めた感覚を活かしつつ、そこにジャンクな狂気と暴力性を注入し、覚醒させております。ループや逆回転なども駆使して、浮遊感と不安感、焦燥感も過多。理性の利いたintellectualなサウンドも良いのですが、ここで聴ける醒めた狂気も最高でございます。
 事ほど左様に素晴らしいバンドではあったのですが、その評価*7は芳しくなかった。1993年に2nd "Chasm"CD.(EMI/TOCP-7738)をリリース。1stほどの衝撃は無かったものの地味に良質な作品だったのですが、これまた前作に輪をかけて話題にならず、ひっそりと表舞台から姿を消したのでした・・・*8。多分中古盤屋で安価にて転がってると思われるので、よかったらお試しあれ*9

*1:国内盤にはボーナス・トラックとして"Empire"CD.(詳細は後述)収録曲である"Everybody Wins"と、その後にリリースされたシングル "Raging E.P."(EMI/CDHAR 5301)収録の"Nail"が収録されてますんで、国内盤がオススメ

*2:2nd singleである"No Excuse"(BIG CAT/ABBSCD 22)を買った。ちなみに、このシングルのProducerは後に一世を風靡するColin Richardsonだったり

*3:Barry Clempsonは、後にVERVEの仕事でその名を一部に馳せましたな

*4:今作と、それに関連するシングル3枚、全て「水」をモチーフにしているジャケなのが暗示的

*5:でも、ファンキーな方向じゃ全然ないのね。そこがナイス

*6:ちなみに、エンジニアは盟友であるN.Y.はBrooklynにあるB.C.Studioのドン、Martin Bisiが手がけてます。Martin BisiといえばBill LaswellBrian Eno、Elliott Sharp、Foetus、HELMET、Herbie HancockIggy PopJohn ZornRAMONESSONIC YOUTH、SWANSなど、どメジャーからアンダーグラウンド・シーンのカリスマまで、あらゆるジャンルの「目利き」なアーティストが依頼する敏腕エンジニアなワケで

*7:つーか評価以前に知名度が・・・

*8:その後、メンバー・チェンジをきっかけにGORILLAと改名して活動したそうですが、数枚のシングルを残して解散した模様

*9:どうでもいいんだけど、昔LAST BANDITのセールでTHE BEYONDの2ndの柄のTシャツが売ってたんだよなー。小さいから買わなかったんだけど、部屋着用に買っときゃ良かったw